ょう。」
松井も仕方なしに立ち上った。
おたか[#「たか」に傍点]は火鉢に火を入れて、それを球台の下に置いた。それからゲーム台の処に坐って、じっと林を見た。彼女の眼からある微笑みが出て、それが林の顔を笑ました。
松井は林がやって来てから急に一種の屈辱を感じた。皆が林と影でそっと意を通じていること、林が主人顔に振舞っていること、それが松井の鋭い神経に触れたのである。そして突棒を取って林に向いながら彼は強い憎悪を身内に感じた。
松井はなるべく敵に譲る後球《あとだま》が悪くなるようにした。自分で万一を僥倖しないで、敵に数を取らせない工夫をした。そして第一回は美事に勝った。第二回も勝利を得た。第三回にも同じ方法を講じた。然し林は松井の残した悪球を平気で突いた。顔の筋肉一つ動かさなかった。おたか[#「たか」に傍点]も澄ましていた。で松井は苛ら苛らして来た。やってることが林やおたか[#「たか」に傍点]に分らない筈はないと思った。彼は興奮した眼を突棒の先に注いだ。そしてゲームを突き切った時、突棒を捨てた。
「今日は大変当りがお悪いですね。」とおたか[#「たか」に傍点]が林に云った。
「ええ駄
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