球突場の一隅
豊島与志雄

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)慌《あわただ》しそうに

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)半分|助《す》けて

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)小説1[#「1」はローマ数字、1−13−21]
−−

     一

 夕方降り出した雨はその晩遅くまで続いた。しとしととした淋しい雨だった。丁度十時頃その軽い雨音が止んだ時、会社員らしい四人達れの客は慌《あわただ》しそうに帰っていった。そして後には三人の学生とゲーム取りの女とが残った。
 室の中には濁った空気がどんよりと静まっていた。何だか疲れきったような空気がその中に在った。二つの球台《たまだい》の上には赤と白と四つの象牙球が、それでも瓦斯の光りを受けて美しく輝いていた。そして窓から、外の涼しい空気がすっと流れ込んだ時、ただ何とはなしに皆互の顔を見合った。
 室の奥の片隅にゲーム取りの女と一人の学生とが腰掛けていた。それと少し離れてすぐ球台の側の椅子に二人の大
次へ
全32ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング