学生が並んでいた。村上という方は、色の白い眉の太い大柄《おおがら》な肥った男である。大分強い近眼鏡をかけているが、態度から容貌から凡て快活な印象を与える。之に反しても一人の方は、細そりとした身体つきで、浅黒い頬には多少神経質な閃きが見られた。遠くを見るような眼附をしながら、じっと眼を伏せる癖があった。松井という姓である。
「おい!」と村上は小声で松井の方を向いた。彼は眼の中で笑っていた。
 松井はただじっと村上の顔を見返しただけで、何とも云わなかった。
 村上はそのまま視線をそらして室の中をぐるりと見廻したが、急に立ち上った。
「おたか[#「たか」に傍点]さん一つやろうか。」
「ええお願いしましょう。先刻《さっき》の仇討ちですよ。」
「なにいつも返り討ちにきまっているじゃないか。」
「へえ、今のうちにたんと大きい口をきいていらっしゃいよ。」
 女は立って来て布で球を拭いた。そしてそれを並べながら松井の方に声をかけた。
「松井さん、あちらでこちらの方《かた》と如何です。」
「今日はもう疲れちゃった。」と松井は投げるように云った。
 其処にお上さんが奥から茶を汲んで出て来た。もう可なりのお
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