いたのです。
「ねえ、あんたは何のかんけいもないんでしょう。だいいち、そんなにお金をもってるわけがないんだもの……」
 マリイは戸棚《とだな》から紙包みをとりだして、そこにひろげました。金貨や銀貨がたくさんはいっていました。
 トニイは腕をくんで考えこみました。それから、金貨や銀貨をつかみとって、それを打ち合わしてみました。
「にせもんじゃない。ほんとのお金だね」
「そうでしょう。かまやしないわね、使ったって……。神さまが下さったと思やいいわ。これだけお金があれば、りっぱな店が出せるわね。二人で話してたでしょう、りっぱな美しい店をだしたいって……。ねえ、そうしましょうよ」
「だが、君の名前をいっておいていったんだから、君を知ってる人にちがいないし……」
「だってあたし、そんな人、知らないわ。神さまよ、きっと。あたしたちのことをあわれんでくだすってるのよ。そう思ったらいいじゃないの」
「うむ……とにかく、ふしぎだなあ」
 マリイの母親は、トニイのようすをじっと見ていましたが、もう疑いがはれたようでした。そしてこれまでのことをお礼をいい、これからのことを相談しました。
 トニイは考えこみま
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