って、トニイは立ち上がってのびをしました。そして、花のうれたお金と残った花とをマリイにわたしました。
「今夜はもうおしまいだ。よかったら、また明日おいでよ」
 そして品物を箱にしまい、店をかたづけ、それを車につんで、その車をがらがらひっぱっていきました。
「さよなら」
 マリイはそこにたたずんで、じっと見おくりました。

      二

 トニイは午後の三時頃から広場にやってきて、店をだします。マリイは日がくれてからやってきます。そして二人で仲よく、いろんな品物や花を売りました。ずいぶんよく売れました。
 客のない間は、二人とも木の箱に腰《こし》かけて、トニイは本をよみ、マリイは絵本などをみ、そして時々話をしました。
 マリイの父親は、支那《しな》やヨーロッパに通う貨物船の水夫でした。ところが二年ばかり前、その貨物船が行方不明《ゆくえふめい》になり、船といっしょに父親も行方がわからなくなりました。たぶん、船は沈み、父親は死んだものと、思われました。マリイは母親と二人で、さびしく暮していました。もとからびんぼうなのが、さらにびんぼうになりました。母親はよその家に雇われて、昼まだけ稼《か
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