せ》ぎに出ました。アパートの小さな安い部屋へと、なんども引っ越しました。そのうちに、母親は病気になりました。どうにもならなくなって、マリイは花売りになろうと決心したのでした。
「あたしどんなにでも働くわ。そしてお母さんによい薬をのましてあげたいの」とマリイはいいました。
「うむ、もすこししんぼうするんだよ」とトニイはいいました。
「今にこの店を大きくして、たくさん商売ができるようにしてあげよう」
 広場のかたすみのやたい店ではなくて、りっぱな建物の一階、きれいなガラス戸がたっていて、明るく電灯がともってる店、中にはいっぱい、花をかざり、いろんな品物をならべる。温室にさいた珍しい花、世界各地からきた珍しい品物、お伽《とぎ》ばなしのような美しい店です。
 そんなことを二人は空想し、話しあいました。そして毎日、広場のやたい店にでるのがたのしくなりました。
 ところが、ある晩、マリイはやってきませんでした。それから次の晩も、また次の晩も……。病気なのでしょうか。何が起こったのでしょうか。
 トニイは心配になりました。夜おそくおくっていったことがあるので、マリイの住居《すまい》はわかっていました
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