はらと涙をこぼしました。
「泣きむしだなあ、君は。泣きむしの花なんか売れるもんか。あんなところに立っていたって、花は売れやしないよ」
 少女はトニイを見つめました。トニイはいいました。
「君はまだしんまいだな。今日からはじめたんだろう。そうだろう。よろしい、僕はこの絵はがき屋のトニイだ、僕の店をすこしかしてやろう。君の名はなんというんだい」
「マリイっていうの」
「ふーん、マリイか」
 トニイはやたい店のよこの方をすこしかたづけ、そこにマリイのもっている花をならべました。そして木の箱をとりだしました。
「そこに腰《こし》かけて、待っているんだよ。絵本でも見てりゃいいよ。売りものだから、よごしちゃだめだよ」
 トニイはまた本をよみはじめました。マリイは箱に腰かけて、ぼんやりしていました。
 美しくきかざった男や女が通りかかっては、店の前にたちどまりました。絵はがきや絵本や細工物《さいくもの》が、赤や白や紫の花とならんで、たいへんきれいでした。いろいろなものがよく売れました。
「どうだい、売れるだろう」とトニイはとくいそうにいいました。
「ええ」とマリイはにっこり笑いました。
 夜おそくな
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