当《けんとう》がつきませんでした。とったと思っていると、一枚もとっていません。まだとらないと思ってると、四五枚ポケットにしまいこんでいます。カードの奇術《きじゅつ》と同じことでした。
「おどろいたなあ、あなたは奇術をやるんですか」
「なあに、ちょっとしたなぐさみさ。またこんど寄るよ。これは遊びちんだ。絵はがきなんかいらない」
 紳士は銀貨を一枚ほうりだして、行ってしまいました。
 それから時々、その紳士はトニイの店にたちよりました。いつも酒によってるようでした。そして絵はがきのごまかしっこをして、トニイと遊びました。トニイもだんだんうまくなりました。二人はもう仲よしになって、したしく握手《あくしゅ》をしあうほどになりました。
 そして近頃、その奇術《きじゅつ》の紳士が、さっぱり来なくなりました。マリイが店にでるようになってからは、一度も来たことがありませんでした。
 その紳士が、マリイの父親と同じ顔なんです。マリイの父親は二年も前に死んでるらしいんですが、どうもふしぎです。それから、マリイのところに誰からともなく届けられたたくさんのお金……。
 あの紳士があやしい、あれをつかまえてみよ
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