かおれぼう》に背広服をつけ、ダイヤかなんかのネクタイピンを光らせ、時計の金鎖を胸にからませ、べっこうぶちの眼鏡《めがね》をかけています。けれども、眉《まゆ》から鼻から口もとまで、そっくり同じです。
 へんな紳士でした。トニイがやたい店にぼんやりしていました時、その紳士が一人で通りかかって、しばらく絵はがきをあれこれ手にとってながめて、一枚も買わずに立ち去りました。それから戻ってきて、笑いながらいいました。
「絵はがきの代はいらないのかい」
「どの絵はがきですか」とトニイはたずねました。
「はははは、君はぼんやりだな。これだよ」
 彼は上衣《うわぎ》のポケットから絵はがきを四五枚とりだしました。みなトニイの店にあったものなんです。
「どうだい、気がつかなかったろう」
「なあんだ、さっきごまかしたんですね。よし、も一度やってごらんなさい。こんどはごまかされやしません」
 紳士は絵はがきを手でいじくりまわしました。トニイはその手もとをみつめていました。よろしいという合図で、とったかとらないか、とったならどこにかくしたか、それをあてるんです。ところが、紳士はとても巧妙で、トニイにはどうしても見
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