をやってた者で、こんどもさまざまな雑貨を並べ、内々は闇取引をもしていました。そこの主人の大井増二郎が、ちょいちょい清水恒吉のところに顔を出しました。別に用もないのに来ることもあれば、食糧品を持って来ることもありました。
 その大井増二郎が、時によって違う話を、言いにくそうに切り出すのでした。
 池に金魚をお飼いなさいと勧めました。――池に湧き水がしてるということが、大変よい条件になる。金魚の色、黒や赤や青やその他の間色から、その染め分けの模様まで、あれは固定してるものではなくて、いつも徐々に変化する。色が濃くなったり、褪せたりする。模様も変ってゆく。ところが、或る期間、清冽な水のなかに置いておくと、色の濃淡から模様まで固定してしまって、其後はどんな水に飼おうと、生涯変らない。この変らない金魚が、最も高級品である。清水家の池なら、その高級品が育てられる。湧き水のところだけを堰きわけ、淀んだ方で優秀な色合いのものを育て、泉の方でその色合いを固定させるのだそうである。
 また、池を貸して下さらないかとも言いました。――金魚池にするのである。東京の金魚屋は殆んど全滅してるので、金魚を育てて売り
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