りました。朝の太陽が池に映って、その太陽のなかに、竜の姿が……実はたつのおとしごのような姿が、はっきり見えたことなどを語りました。
「それ、その竜の姿は、どんな風でしたか。」
 高鳥真作は眼を光らして尋ねましたが、恒吉は笑いました。
「だからさ、たつのおとしご、知ってるだろう、あれみたいなものだと言ってるじゃないか。」
 恒吉はもう酔っていました。真作も酔ってきました。
「とにかく、何がいるか、池浚えをやりましょう。会社にポンプもあればガソリンもあります。工員を二三人ひっぱって来れば、充分でしょう。早速とりかかりましょう。」
「まあいいよ。水蓮が花を出さなかったら、その時にしよう。」
「水蓮の花なんか、今年は出ませんよ。」
「いや、きっと出る。」
「出ませんよ。」
 出たら、それを見ながらまた酒を飲もう、出なくても、飲みましょうと、そんなことで話を終り、真作は泊ってゆくことになりました。そして、池浚えの一事だけが恒吉の頭に残り、やがて、それが強く思い出されることになりました。

 清水恒吉の家から、畠ごしに少し距ったところに、小さな家が一つ建って、夫婦者が住んでいました。罹災前は雑貨商
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