崖下の池
――近代説話――
豊島与志雄

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)八手《やつで》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)小説4[#「4」はローマ数字、1−13−24]
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 さほど高くない崖の下に、池がありました。不規則な形の池で、広さは七十坪あまり、浅いところが多く、最も深いところでも人の胸ほどでした。
 崖から少し湧き水があるので、自然に池の水が替わり、下手からちょろちょろ流れ出ていました。その生きた水は、表面をすくい取れば澄んでおり、深みを覗けば薄く濁っていました。
 この池、昔は、子供たちの遊び場所でした。それから、ちょっとした庭の一部となりました。戦争中、その水は、防火訓練のある毎に実習用に使われましたし、また、水道が断水した時には、いろいろな用水に汲まれました。空襲によってこの辺一帯が罹災した折に、この池がどういう役に立ったかは、混乱の中とて、よく分りません。ただ、多少の器物が投げ込まれただけで、殆んど利用されず棄て置かれたというの
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