した。
真先にそれを見つけたのは、いつも早朝に池のほとりを歩き廻る清水恒吉でした。彼は暫く死体を凝視してから、静かな声で辰子を呼びました。
辰子は大井の家へ馳けだしました。増二郎が来ました。恒吉と増二郎は、死体を庭に引き上げ、それから布団に寝かしました。誰が呼ぶともなく、近くの小屋の人々が集まりました。それから、医者や警官、一通りの調査、葬儀の準備など、きまりきったことが為されました。
池浚えのあと、時子はひどく無口になっただけで、別に怪しい点も見えなかったそうでした。ただ一つ不思議なのは、池から斜め上に当る崖の上に、嘗ては粗末な稲荷堂があって、小さな石の鳥居がまだ残っていましたが、その鳥居の片足に、赤い布が巻きつけてあるのが、誰からともなく見出されました。その赤い布は前日までは、少くとも数日前までは無かったということでした。また、前日、その辺を時子がぶらついてたということでした。然しそれらのことも確かかどうか分らず、ただの風説程度に過ぎませんでした。
然し、それらのことは、清水恒吉に深い印象を与えました。崖にのぼる道が少しく先方にありまして、恒吉はそこから鳥居のところへ行きま
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