もあります。水草や穴の中から音を立てて出てくるのもあります。水はますます少くなり、魚たちは泥の中に横たわったり跳ねたりします。思いがけない大きいのがいたり、つまらないものばかりだったりします……。
 ――信生を連れてくるんだった。
 恒吉は突然、後悔に似た思いをしました。池のかいぼりをするなら、信生を呼んでやるのでした。信生はどんなに喜んだか知れません。それを恒吉は失念していました。
 ――然し……。
 単なるかいぼりではなく、探査が目的だったのです。池の中に果して、子供がいるか、白骨でもあるか、何か怪しいものでもあるか、それを見届けなければなりませんでした。
 高鳥真作は腕を拱いて、池の中を眺めていました。工員たちも池の中を眺めていました。大井増二郎は室の縁先に腰かけていましたが、時子はいつしか池のふちに出て来て、石像のようにつっ立ち、池の中を見つめていました。辰子もその側に立って池を見ていました。
 四つ目垣の外にも、見物人がありました。近くの人たちでした。恒吉はそちらへ声をかけて、庭の中に招じましたが、誰もはいって来る者はありませんでした。子供たちだけが数人はいって来ました。なに
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