に曝してやるのだ。
 恒吉は昂然と池を眺めました。愛すべき美しい池でありました。
 日曜日の朝、高鳥真作は、三人の工員にポンプを引っぱらしてやって来ました。大井増二郎夫婦は室の中へ招じられました。
 断雲が空に流れて、陽が照ったり陰ったりしました。
 池浚えははじまりました。エンジンは軽快な音を立て、池の水はポンプに吸いあげられて、徐々に減ってゆきました。水面はいつもより一層平静で、殆んど分らないほどに低下してゆきました。その水面が後には、次第に中央から凹んでくるようになりました。周囲の方は岸辺にねばりついて低くなるのを嫌がり、中央の方から先に低くなって、周囲の方を引きずり落してゆく、そういう様子です。その水面に時折、波紋が起って、何か動くもののある気配を示しました。その動くものが、やがては、否応なく姿を現わすに違いありません。何がいるか分りませんが、確かに何かいるのです。
 恒吉は、幼いころ田舎でかいぼりをやったことなどを、思い出しました。川や小さな淵などを堰きとめ手桶で水を汲みほすのです。水が少くなると、盛んに波紋が立ちます。いろいろな魚があわて騒いでいるのです。水面から跳ね上るの
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