――なんという愚劣な蒙昧なことだろう。
それから、その全体の愚劣蒙昧さに対して、挑戦する気持ちになりました。挑戦の方法として、池浚えを考えました。
恒吉は会社で、高鳥真作に逢って、池浚えのことを相談しました。
真作は眼を丸くしました。
「やはり出ますか。」
それを問いつめますと、真作は打ち明けました。――移転少し前のこと、或る夜池の中に女の姿がしょんぼり立っていた。それが確かに見えた。しばらく見つめてるうちに、女の姿はすーっと向うへ行って、消えてしまった……。
恒吉は顔をしかめました。
「だから、そんなことがありましたから、やはり、池を浚えてみた方が宜しいですよ。大丈夫、引き受けました。社のポンプを使えば、わけはありません。」
恒吉はただ仕事だけを頼みました。
――ここにも、愚劣蒙昧のはしっくれがある。恒吉は全く挑戦の決心をしました。高鳥真作に池浚えをやらせ、大井増二郎夫婦を招いてそれを見させることにしました。そんなことをして、或は、新たな噂の種をまくことになるかも知れませんが、構うことはないと思いました。
――池の中に何も怪しいものがあるわけではない。それを白日のもと
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