て、新たな畠がつくられつつありました。そしてぽつりぽつり、と小さな住居が建てられていました。崖上から崖下一帯にかけて、広範囲な焼け跡で、遠くを通る人の姿まで見通せ、すっかり田園の風致でした。
 池のそばにも、小さな家が一つ作られました。はじめはトタン葺きのバラックでしたが、後には瓦葺きの建物となりました。池をこめて二百坪ほどの地所が、清水恒吉の所有でありまして、そこを他人の使用に放任しないために作られたトタン葺きの小屋には、恒吉と同じ会社に勤めてる高鳥真作が住みました。其後、真作が他に住居を得て移転してから、小屋は取り壊され、ささやかながらも瓦葺きの住宅が建てられて、恒吉が姪の辰子と共に住みました。電灯もつき、水道も出ました。崖の横腹に穿たれた嘗ての防空壕が、恰好な物置となりました。
 春になっても、子供たちはもう池へ遊びに来ませんでした。地所の三方には竹の四つ目垣が結い廻され、八手《やつで》の青葉などが所々にあしらわれ、一方の崖には、焼け残った灌木が芽を出し、蔦や蔓が延びました。
 或る日、かねての約束どおり、高鳥真作が植木をトラックで運んできました。楓、桜、梅、檜葉、梔子《くちなし
前へ 次へ
全26ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング