めはいい加減に聞き流していた清水恒吉も、次第に気になってきました。
「いったい、あなたが本当に考えていられることは、どういうことですか。」
「ですから、その、池を貸して頂いてもよろしいですし、売って頂いてもよろしいですし、池だけでなく、地所全体を貸して頂いてもよろしいのですが……。」
「つまりは、池が問題なんですね。」
大井増二郎は顔を伏せ、上目使いに相手をちらと見て、慌てたように言いました。
「いえ決して、そのようなわけではございません。ただ思いつきだけでなく、充分考えた上のことですから。」
「だから、その、本当の考えを、打ち明けて貰えませんかね。事によっては、御相談に乗りましょう。」
「そう仰言って頂ければ、実に有難いのです。失礼なことで、お気を悪くなさりはすまいかと、心配しておりました。」
「御近所のことですから、御遠慮なく言って下さい。そこで、池をどうなさるつもりですか。金魚を飼って、喫茶店でも出すと、ただそれだけのことではありますまい。」
「それはもう、金魚なんか、是非にというわけではありませんが、それにしても、このままにしておくのは惜しいものですな。」
「では、どうすれば
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