引寄せたカーテンについてる、それぞれの番号が、通路のぼんやりした電灯の光に、いやにくっきりと浮出して、それはもう、寝台の番号ではなく、その中の人体の番号でもなく、変に遊離した数字にすぎない。その遊離した数字が、淡い不安な空気をかもし出す。そして、大きな声や足音を、おのずから禁止する……。
夜更しの習慣の私は、早くから寝静まる寝台車からのがれて、食堂車に腰をすえていた。腹はすいていないし、ゆっくりやるには、いきおい、ビールか日本酒だ。
ところが、時間すぎの食堂車というのが、また変なもので、大抵は、連れのある客というものがない。一人ぽっちの者だけで、それが二人か三人、あちこちの隅に腰を下して、互に見るような見ないような、中途半端な眼付で、何やらぼんやり考えこんで、時々思い出したように、ビールか酒かをのんでいる。ボーイ達も奥に引込んで、カウンターに居残ってるのが、不愛想な投げやりな表情をしている。卓布がいやにだだ白く、貧弱な花が淋しくゆれていた。こんななかでうまかろう筈もない酒やビールを、孤独な客たちは、ただ機械的に飲み続ける。
機械的に飲んでも、酔うのに変りはない。無言のうちに、そし
前へ
次へ
全15ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング