いて休む、その時、一本の足が、丁度隘路の上に垂れるのだと、そんなことを最も多く考えた。然しこの考えは、どうもしっくりこなくて、陰欝な隘路の夕闇の中にぶらりと垂れ下る一本の大きな馬の足だけが、あらゆる解釈や物語から超越して、まざまざと見えてくるのであった。
*
馬の足の話は、いろんな形で、各地に、云い伝えられているものらしいが、その研究は暫く措いて、私はこれに似た事柄を、現実に、而も人間について、経験したことがある。
山陽線を旅していた時のことである。山陽線は、時折、瀬戸内海の景色を車窓に見せてはくれるが、ただそれだけで、いつも同じような山と田圃と町ばかり、そして同じような屈曲で同じ方向に、いつまでも汽車は走り続ける。あんな退屈な線路はない。夜汽車で通るに限る。
ところで、夜汽車というものは、何かしら淡い情緒をそそり、好奇心を眼覚めさせ、猟奇的な感覚に呼びかけるものであるが、それが、二等寝台車では殊に多い。上段と下段と、二列に並んだ寝台が、両側に向い合って、その一つ一つに、見ず知らずの人たちが、一人ずつもぐりこんで、半睡半醒の意識を、汽車の動揺と音響とにゆすられている。
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