そして叔母は何度も立っていって、子供達を叱ったり賺したりして、無理に布団の下に押し入れてるようでした。
 そのうちに、子供達は眠ってしまい、夜は更けて、家の中がしいんと静まり返りました。まだ荷物の取散らされてる新らしい家の、鼻馴れぬ呆けた香りが、あたりの空気に漂っていて、妙に気持が落付きませんでした。私達の話は自然に叔父のことへ向いてゆきました。もう神戸……岡山あたりだろうかとか、いつ頃朝鮮へ着かれるだろうか、とかそんなことを話しながら、夜の中を走ってる汽車と、それに関連するいろんな想像上の椿事とが、心の奥に巣くってきました。そして二人は、遠くを見守る心地で、お寝みなさいとはいつまでも云い出しかねていたのです。女中までが隅の方で、妙にまじまじとした眼を真円い顔の中に見張っていました。
「おや!」叔母は突然顔を上げました。
「え?」と私は眼付で尋ねました。
「誰か来たのじゃないかしら?」
 然しそんな筈はありませんでした。もう表の門も玄関の戸も早くから女中が閉めた筈です。それでも、暫くすると、叔母はまた誰か来たようだと云い出すんです。
「表をこつこつ叩く音がするんですよ。聞いてごらん
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