豊島与志雄

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)唐紙《からかみ》

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(例)※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]
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 叔父達が新らしい家へ移転してすぐに、叔父は或る公務を帯びて、二ヶ月ばかり朝鮮の方へ旅することになりました。勿論この旅行は前から分っていましたが、その出発の間際に、前々から探していた適当な貸家が見当ったので、慌しく其処へ引越して、まだ荷物もよく片付かない三日目の朝、叔父は特急の列車で朝鮮へ出発しました。そして新らしい家の中には、叔母と八歳になる千代子と、五歳になる繁と、顔の真円い女中とが、ごたごたしてる荷物と一緒に残されたのです。
 その頃私は、本郷に下宿して高等学校に通っていました。叔父一家の引越の時は、その高輪の家へ、夕方から夜の十時頃まで手伝いに行きました。実は泊りがけで学校も休んで手伝いたかったのですが、私用のために学校を休ましては国の御父さんに済まないと、厳格な
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