叔父が命令的に云うものですから、それに従っていました。所が叔父の出発の日は、暗黙の許可で学校を休んで、品川駅まで見送りをして、それから叔母達と一緒に高輪の家へ帰りました。何しろ叔父の旅の方の用事が多かったものですから、家の中はまだちっとも片附いていませんでした。それで、半ばは私の方から願い、半ばは叔母の方から願う形で、私は二三日学校を休んで手伝ってゆくことにしました。はっきりした口実の下に公然と学校を休んで、好きな叔母と無駄話などしながら、のらくらと家具なんかを弄って、そして晩にはうまい御馳走になり、おまけにいくらかの――学生の身には可なり有難い額の――小遣を貰う日当があるんですから、実にいい機会だったのです。
 所が叔母の方にも、単に私から手伝って貰うということ以外に、私を引止めたい他の理由があったらしいのです。「この家をどう思いますか、」と尋ねておいてから、こんなことを云い出したのです。
「日当りのよい割合に、何だか陰気な変な家ですよ。妙に息苦しい気がして夜中に眼を覚すと、それから頭のしんが冴えて、どうしても寝つかれません。そんなことが、引越してきた翌晩――一昨日の晩も、昨晩も、あ
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