ったのですよ。」
私は叔母の蒼白い顔を眺めながら答えました。
「それは引越に疲れたせいでしょう。」
けれども心の中ではこう考えました。「この呑気な叔母も案外神経質だな。親しみのない新らしい家と、良人の旅行とのために、神経が興奮してるんだな。」
けれども私達は、そんなことにこだわってはおられませんでした。前の家とはすっかり間取の模様が違っていましたので、家具を据付けたりなんかするのにも、何度かやり直してみなければ気が済みませんでした。それに道具好の叔父なものですから、いろんな品物がごたごたしていて、なかなかうまく治りがつきませんでした。その上、障子を張り替えたり、庭に盆裁を並べたり、いろんな用がありました。
そんなことを隙にあかしてゆっくりやってるうちに、いつのまにか夕方になりましたので、また明日のことだと一先ずきりをつけて、叔母の心尽しの御馳走が並んでる餉台で、皆は楽しい晩餐をしたためました。可なり遅く八時頃だったと思います。新らしい家と主人の不在とのために、何だか電灯の光りまでが珍らしげな色合をしてるように感ぜられました。
その電灯が丁度食事の終り頃、ふいに消えてしまったの
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