!」と云いながら踊り出したものです。そして次の瞬間には、自ら喫驚して立悚みました。自分の踊りが余り馬鹿げきった変梃なものである上に、「おばーけ!」と云ったつもりの声が少しもでなかったのに、俄に気付いたのでした。ぞーっと怪しい気持に襲われて、逃げるように階下へ降りてゆきました。
叔母が茶の間にぼんやり坐っていました。私はその顔を見て喫驚しました。
「どうなすったんです!」
「どうって……あなたこそ。」と叔母は鸚鵡返しに云いました。
実際叔母は、しかめた眉の下に眼を円くし、口を尖らして、不満なのか悲しんでるのか分らない顔付をしていました。そして私は叔母の言葉で、自分の顔の筋肉が変に硬ばってるのを知りました。
私達は妙に無言になって、じっと坐っていました。暫くすると、向うの室の方で、何かひそひそと囁く声が聞えます。耳を澄すと、「恐い?……恐くない?」というような言葉や、「ほら、こんどは狐よ、」などという言葉が聞き取れました。
「ごらんなさい、」と叔母は云いました、「いつまでも寝つかないで、いろんな手真似をして脅かしあってるじゃありませんか。あなたがあんまり悪いたずらをするからですよ。」
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