勧めてみました。「叔母さんが長い髪を振乱して中腰で立つと、屹度本物のお化のような影が写りますよ。」
「お止しなさいよ、本当に!」と叔母は云いました。「子供が夜うなされて困りますから。」
 私は昼間の言葉を思い出して、叔母は子供達よりも自分がうなされはすまいかと恐れているのだ、とそんな風に考えました。そしてなお執拗に影人形の遊びを続けました。
 やがて、子供達の寝る時間になりましたので、叔母が彼等を寝かしつけてる間、私は二階に上って、叔父の書棚を片附けたりなんかしました。※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]絵のある書物はそれを一々眺めたりして、ゆっくり時間をつぶしてるうちに、だいぶたってからふと、縁側の硝子戸に自分の姿が、顔や手先の皮膚をなま白く浮出さして、底気味悪く写っているのを見付けました。それを見ると、天井板や床の間や唐紙《からかみ》の模様など、凡て眼新らしいその室の中が、心をそそるような冷かさに静まり返ってきて、同時に、先刻の影人形の遊びの気分がむらむらと湧いてきて、私は我知らず立上って、両腕を拡げ首を前に突出し変梃な蟹足の足取りで、「おばーけ
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