した。二人の影が大きく背延をして天井まで届きました。
「おばーけ!」
 繁は喫驚して母の膝に寄り縋りました。
「ちっとも恐かないわ。」と千代子は云いました。
 私は立上って、何か恐い影を写してやろうとしました。途端に、電灯がぱっとつきました。皆は変梃な気持で顔を見合せました。私は蝋燭を手にしてつっ立ってる自分の姿を、明るい光の下に見出して、極り悪さのてれ隠しに、電灯の光に代って云ってやりました。
「今晩は。」
 そして蝋燭の火を吹き消しましたが、その時、千代子の新たな影が畳の上に小さく蹲っているのを見て、また悪戯気分が湧いてきました。
 女中が餉台を片附けてゆくと、私は電灯を低く引下げて千代子と繁とを相手に、壁に影を写して遊びました。拡げた両手の先をふらふらと動かし頭を下げて、すーと伸び上りながら、「おばーけ、」と云いますと、その影を見て、繁は急いで逃げて行き、千代子は眼を見張って我慢しています。やがて不安な遊びは、彼等二人をも引込んでしまって、三人でいつまでも影人形の遊びに耽りました。
「もうお止しなさいよ。」と叔母が云いました。
「それより叔母さんも写してみませんか。」と私は反対に
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