っていました。
 やがて皆そろいましたので、胸をどきどきさせながら、長者の屋敷《やしき》の東の白塀《しろべい》のところへやって行きました。
 ところが、一目《ひとめ》見ると、皆はあっと口の中で叫んだまま、おどろいて立ち止まりました。皆のおもしろい影法師がいっぱい立ち並んでいた白塀は、一面に何かでまっ黒に塗られてしまって、そのまっ黒な色がまたひどく濃《こ》くて、いわば闇の鏡みたいになっているのです。影法師どころか何一つ見えないで、ただ一面にまっ黒なだけです。
「はっはっはっは……」
 高い笑い声がしたので振り向くと、昨日の男がそこに立って笑っています。
「私のあのおかしな影がね、一晩のうちに大きくなって、塀いっぱいにひろがったのだ。とんだことになってしまった」
 それを聞くと、子供たちは急に怒り出しました。その男がだまかしたのだ。嘘を言ってるんだ。影法師が一晩のうちに塀《へい》いっぱいに大きくなるなんて、そんなことがあるものか。その男が塀をまっ黒に塗りつぶして、皆の影法師《かげぼうし》をなくしてしまったのだ。
「嘘つき、嘘つき。僕たちをだまかしたんだな」
 そう言って子供たちはつめよって
前へ 次へ
全10ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング