影法師
豊島与志雄

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)東の端《はし》に
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      一

 うしろに山をひかえ前に広々とした平野をひかえてる、低いなだらかな丘の上に、小さな村がありました。村の東の端《はし》に、村一番の長者《ちょうじゃ》の屋敷《やしき》がありまして、その塀《へい》の外の広場は、子供たちの遊び場所でした。
 白く塗った土塀《どべい》、左手はゆるやかな山すそで、いろんな灌木《かんぼく》や草がはえています。前には小さな川が流れていて、魚が泳いでいます。川の向こうと右手の方には、たんぼが続いています。子供たちはその広場でおもしろく遊ぶことが出来ました。
 晴れた日の朝早く、長者の子供を交《まじ》えて三四人の子供が、いつものように、そこで遊んでいました。東の地平線から出たばかりの太陽の光りが、皆の影を白い壁にくっきりとうつしていました。その影があまりはっきりしておもしろいので、皆は影うつしの遊びを始めました。
「ああ、いいことを考えた」と長者の子供がふいに叫びました。「待っといでよ、じきに来るから」
 そして長者《ちょうじゃ》の子供はいきなり
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