駆け出して、うちの中にはいって行きました。
お祖父《じい》さんが、大きなまんまるい眼鏡《めがね》をかけて、縁側《えんがわ》で本を読んでいました。
「お祖父さん、僕にあの……東の塀《へい》を下さいよ」と子供は言いました。
お祖父さんは、まんまるい眼鏡の下にびっくりした眼を開いて、子供を見ました。
「なに、塀をくれって……」
「ええ、下さいよ。おもしろいことがあるんです。こわしやしません。ただ遊ぶだけなんです。塀で遊ぶんです。ね、いいでしょう」
「塀で遊ぶって……おかしなことを言う子だね。こわしさえしなければよいけれど……」
「じゃあ下さいね。遊ぶだけなんですから」
そして子供はもうお祖父さんの側から駆け出して、部屋の中にはいって、大きな硯箱《すずりばこ》を持ち出して、またもとの塀の外に駆けてきました。
「何をするの」
待ってた子供たちが集まってきました。
「今ね、この塀をお祖父さんからもらってきたんだ。だから、こわしさえしなけりゃ、何をしたって叱《しか》られやしないよ……これから皆の影法師《かげぼうし》を、この塀の上に写し取るんだよ」
「影法師を写し取る……うん、おもしろいな」
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