皆はわーっと声を立てておもしろがりました。そしてすぐにそのしたくにかかりました。小川の水を硯にくみ取って、一生懸命に墨《すみ》をすりました。早くしないと、太陽が昇ってしまいます。太陽が昇ってしまえば、影法師《かげぼうし》は小さくなってだめなんです。
「僕が考えたんだから、僕が先だよ」
そう言って長者の子供は、白い塀《へい》の前につっ立ちました。その姿通りの影が、白塀《しろべい》の上にはっきりうつりました。それを他の子供たちが、墨《すみ》をいっぱいふくました筆で写し取りました。
「影法師なんだから、すっかりまっ黒に塗らなけりゃいけないよ」
そして皆は影法師の形をまっ黒に塗り始めました。硯《すずり》の水がなくなると、また小川の水を汲《く》んできて墨をすりました。
そのうちに、太陽はずんずん昇っていって、塀にうつる影法師は小さな不格好なものになりましたので、長者の子供一人のだけで、他のは写し取れませんでした。
「また明日の朝にしよう」
二
毎日晴れた日が続きました。子供たちは朝早くから白塀の前に集まって、かわるがわる影法師を写し取りました。
そのことをおもしろがっ
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