法師が塀からぬけ出して踊ってくれるといいんだがなあ」
 そう皆は考えました。そしていつも塀の前に集まっては、何度もくり返して考えました。しかしそんなことが出来るわけはありません。
 ところが、ある日、皆がやはりそこに集まって、同じことをこそこそ話し合っていますと、いつのまにどこからやって来たか、髪の長い見馴《みな》れない男が、そばにつっ立って笑っています。
「君たちはばかなことを考えてるね」
 そしてやはり、塀の影法師を見て笑っています。
 子供たちはそれがしゃくにさわりました。髪の長い見馴《みな》れない変な男ですけれど、それもかまわずに、皆でつめよっていきました。
「何を言ってるんだい。何がばかなことなんだい。影法師《かげぼうし》を踊らせようとするのが、何がばかなことなんだい。おもしろいことじゃないか」
 見馴れない男は、さも愉快《ゆかい》そうに、はっはっ……と笑いました。そして言いました。
「なるほど、私が悪かった。それはおもしろいことに違いない。……それでは一つ私が教えてやろうか。その影法師を踊らせることを、教えてやろうか」
「え、おじさんはそんなことを知ってるの。教えて下さい。
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