薩摩芋は、畑に出来たのを、おしまいまで残しておいた、そのおしまいのものだって、ほんとうですか、それから、この里芋は、畑のはじめて掘ったものだって、ほんとうですか。」
「ほんとだよ。僕は畑の番人をしてるから、すっかり知ってるよ。」
「そう。とっておきのものに、おはつほ、嬉しいことね。だから、一番おいしくして食べましょうよ。煮るより、ふかすより、ゆでるより、こうして焚火で焼いたのが、一番おいしいんですよ。」
「僕知らなかった、お母さんに教えてやろう。」
「お母さんにも、食べて貰いましょうね。」
千枝子は灰の中から、芋をかきだした。もう半ば焦げたのや湯気を吹いてるのがあった。彼女はそれを選り分けた。
「待っていらっしゃいね。」
千枝子はあちらへ急いで行った。
山口は彼女のあとを引き受けて、灰の中の芋をかきだした。薩摩芋と里芋とがたくさん出てきた。そうしながら彼は子供に話しかけて、彼の母親はもと波多野邸にいた人であること、彼等一家は空襲に罹災して焼け跡にバラック生活をしてること、周囲に菜園を拵えてること、などを知った。
千枝子が戻って来た。美しい青磁の鉢を持っていた。その鉢に彼女は、灰
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