、いらっしゃいませんの。」
「先程から、もう充分、御馳走になってきました。」
彼女は胸の荷を焚火のそばに投りだして、子供の方へ言った。
「たくさん焚物を貰ってきましたよ。」
子供相手に、彼女はひどく嬉しそうだった。胸元や、帯の御所車の刺繍[#「刺繍」は底本では「剌繍」]から、ちょっと埃を払っただけで、まだ藁屑をそこらにつけたまま、持ってきた芋俵らしいのを焚火にくべた。
火は横にはい、それから一斉に燃え上った。焔の先は人の顔ほどに達した。
子供は声を立てた。千枝子は飛びのいて、棒切れを拾い、俵の燃え残りを押えつけた。
山口は呆気にとられた。
「こんなに燃やして、どうなさるんですか。」
千枝子は返事をせずに、ただ自分の心に答えるように微笑した。
俵が燃えつきると、枯枝を、こんどは少しずつくべた。子供は枯枝をぽきぽき折った。真赤な藁灰の上に枯枝は爽かに燃えた。
山口は先刻の肥料の話を思いだした。
「肥料の灰でも拵えるのですか。」
千枝子は彼の方を見て、くすりと笑った。それから急に真面目になった。
「芋を焼いていますの。」
そのあとを、彼女は子供に話しかけた。
「ねえ、この
前へ
次へ
全27ページ中19ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング