を浴びた庭はなにか寒々としていた。その彼方、袖垣の向うに、濃い煙がたち昇っていて、子供の笑い声がした。その方へ彼は歩いていった。
空樽や木の株がころがってるその空地の真中で、落葉が焚かれていて、煙りがちなのを、男の子が頬をふくらまして吹いていた。
「焚火をしているのかい。どれ……。」
山口は木の小枝をとって、煙ってる落葉をかきたてようとした。子供はそれを遮った。
「いけないよ。」
「だって燃えないじゃないか。」
「いけないよ。」
積みかさなって煙ってる落葉を、子供はしきりにかばう様子だった。
のびのびと発育した体躯の大きな子で、もう学齢ほどらしいのに、長い髪の毛を女の子のように額に垂らしていた。織目の見える古生地の粗服を着ていたが、それと対照に、ふっくらとした頬が如何にも瑞々しかった。
子供は急に嬉しげな表情に変った。建物の蔭から、彼女が、魚住千枝子が、出て来た。
いつもの端麗な顔だった。羽織なしに、紫と臙脂との縞お召の襟元を、窮屈そうなほどきりっと合せていた。その身扮で藁俵と枯枝とを胸いっぱいに抱えていた。
彼女は黙って山口を見た。
山口は会釈をした。
「お座敷の方へ
前へ
次へ
全27ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング