らっきょうが……。いくら皮をむいても、何にも出て来ない。」
 武田はまた笑った。私も笑った。朗かな笑いだった。
 いくら皮をむいても何にも出て来ない、つまり、如何に裸になり真剣になっても大した仕事が生れない、と言うのは武田の卑下であって、彼は確かな芯を持っていた。私自身、いくら皮をむくつもりでも、すっかりはむけないし、大した仕事も生れ出ないことを、自ら歎じてはいたが、それでも芯についての自信はあった。だから二人とも声を揃えて、朗かに笑った……らしい。
 笑ってしまえば、もうそれでよいのだが、さて、芯の問題を離れて、皮の問題だけが残ったのである。そして私達は珍らしく、文学論……というよりは作家論を初めた。
 一皮むけば違った人間になる、つまり嘘かごまかしかの皮をかぶってる、そういう作家が最も下等だ、という前提のもとに、私達は仲間の文学者達を批判した。このことについて、武田は厳粛であり痛烈であり尖鋭であった。――この時の彼の意見を述べれば長くなるし、また酔余の論議なので私は充分に記憶していない。
 ただ、こういう作家論を痛快にやってのけた武田自身こそ、嘘やごまかしの皮をかぶること最も少い作
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