ひそめてるかのようだった。
「え、どう思うか。」と彼は促した。
「皮肉が言いたければ、外の話題を選ぶがいい。」と私は答えた。「そんな、拵えもののお伽噺は、やめたがよかろう。」
彼は私の方をじっと見ながら、暫く黙っていた。それから笑った。
「だがね、たとえお伽噺にせよ、最後のところは、お前の口癖をまねたんだぜ。」
「いや、俺はどんなことにも、眉をひそめやしない。」
「きっとか。それならば、こういう事柄をどう思うか。」
こんどは、彼が煙草をふかしはじめた。そして言った。
「俺は嘗て中国に旅行した時、田舎の貧しい町の商店を見て、淋しく思った。その店々には、商品らしいものは殆んどなく、人間のけはいも乏しく、ただがらんとして佗びしく、そして乱雑で埃がいっぱいたまっていた。ところが、近頃の東京の店々が、それと全く同じじゃないか。商品と人間との影が薄らいで、乱雑ながらくたと日を経た埃とだけが、商店の内部にのさばっている。銀座通りにまで、まだそんなのが多い。――これをお前はどう思うか。
「また俺は、嘗て台湾に旅した時、本島人の住む街路で、人家の出入口などに、大きな石や煉瓦がころがっているのを、しば
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