しば見かけた。ちょっと取り片付ければなんでもないのに、いつまでも通行の邪魔になるままに放置されていた。ところが、近頃の東京の町々にも、それと同様なことが、見られるじゃないか。殆んど収穫の見込みもないちっぽけな菜園の土盛り、防空壕の埋め跡の凸凹、そんなのはまあいいとして、瀬戸物の破片や、焼けトタンや、石ころや、壊れた屋根や煉瓦など、僅かバケツ一杯ぐらいの量のものが、垣根に放置されて、通行の邪魔をしている。――これを、お前はどう思うか。
「美に対する感覚の麻痺とまでは、俺は言わない。なりふり構わぬ心のすさみの現れとまでは、俺は言わない。だが、つまりは、能動性を失った投げやりな精神、成りゆき任せの無関心さと、大袈裟に言えば言えないこともない。ところで、周囲への生活的関心が次第に狭まってくる現象は、賤しい乞食へと堕落してゆく場合と、高度な文明人へと発達してゆく場合と、地上のことを忘れて天上のことに専心してゆく場合と、三通りある。右のことは、その三つのうちのいずれと思うか。」
私は黙って答えなかった。彼は言った。
「答える必要がないと、お前は言うのだろう。或は、余りに卑俗な説だと、お前は言うの
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