斎にやってくる、そして二人で酔っ払って、それから……その先になにか、宿命的な決定的なものが控えているのだ。おれはそれを肯定し、それを受け容れよう、拒否はすべて卑怯だ。
おれと同じく、彼女も拒否を知らない。
「自分で自分がわからないわ。」
彼女は独語のように呟いた。二人がどうしてこんなことになったか、それを指すのだ。然し、理由のないところにこそ、真の愛情があるのだ。
おれたちは、極めて自然に、初めからそうきめられていたかのように、手を執りあい、互に寄り添い、唇を接した。どうしてそうなったか分らないのだ。相互の牽引力とでも言おうか。いささかの摩擦もなかった。
おれの方には、骨もあり、筋もあり、爪もあり、角ばったところもある。だが彼女には、そういうものが一切ない。肥満しすぎてるのでもなく、贅肉が多すぎるのでもないが、全体に丸っこいのだ。顔立ちはふっくらしているし、首が短くて肩が丸く、腰つきが丸っこく、踝も丸っこく、乳房は充実しきった球形をしている。その姿態にふさわしく、言葉つきも感情の動きもすべて丸っこく、ふうわりしている。おれが飛びかかっていっても暴れても、どこにも手掛りはなく、真
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