ありったけ、いつも酒を飲んでしまうのが、悪い癖だ。あとは後悔の連続である。そしてこの後悔という奴、霧のようなもので、たとえあたり一面に立ち罩めようと、再び金が出来れば、音もなく色香もなく消え失せてしまい、何等の痕跡も残さない。
金がなければ、つまり、自由に使える金がなければ、おれだって、生きながら死んでるのと同じだ。彼女の気持がよく分る。もしも、このようなことを公言する者があったら、今の時勢に何を言うかと、おれはぶん殴ってやるかも知れないが、然し、おれと彼女だけは別だ。別だとは、他人でないということだ。
この頃、全くの金づまりで困る。一般にそのようだが、殊に出版界は甚しく不景気で、印税は払ってくれず、原稿料さえ後れがちで、前借などは殆んどだめだ。出版界以外からの借金も、ちょっと方策がつかない。それでも、相馬多加代との交際で、おれには余計な金がいる。昨日は、見当をつけて、或る出版社を訪れ、印税の残りを請求してみた。来月の十日まで待ってほしいと、社長からの返事だ。全く現金がないらしい。次に、或る雑誌社を訪れて、原稿料の前借を申し込んでみた。原稿執筆の約束があるのだ。編輯長はひどく当惑そ
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