と、ぐちゃりと大きな音が指先に伝わり、白い臓腑を噴出さしている。汚らわしい奴だ。紙にくるんで、さて、捨て場所に困ったが、構うことはない、便所に放りこんでやった。
小便をしていると、足がふらついた。
酔ったのかな。
両手を頭の下にあてて、仰向けに寝ころんでみたが、瞼が重い感じだ。眠ってはならない。今に彼女が来るだろう。起き上り、整理小箪笥の一番下の抽出を探ると、幾つかの小壜がある。机の上に、数粒の錠剤をころがしてみる。扁平な白い錠剤をもてあそぶのは、童心の喜びだ。おれはそれらを愛用してるのではない。ヒロポニアンでもなければ、アドルマーでもない。ただ必要に応じて、ちょっとかじるだけだ。味のないこともあり、苦いこともあり、甘酸いこともある。いずれにしても後味はよくない。それを消すにはやはり酒に限る。
考えることがあるのだ。重大な考えごとがあるのだ。少しぬる加減の酒を、思惟の速度に合して、口にふくむだけで、眼を見据えていると、室の天井も四壁も消失して、心気は天地と合体する。微風が音もなく流れ、露が静かに結ぼれてる、晴朗な夜である。
「先生。」
こんどははっきりした声だ。
「はいっても
前へ
次へ
全22ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング