なったのかも知れない。それで彼女は、はっきりしたことが知りたく、自分でやって来た。せめて、伯母さんの家の焼け跡でも見たかった。あれからもう一年半ばかりたっていて、まるで夢のような話だ。どうして彼女一人でやって来たのか、そのへんのところは、ぼやけて分らない。
娘は食事をすました。俺はまだ飲んでいた。
「いろいろ、お世話になりました。」と娘ははっきり挨拶をした。
俺は名刺の裏に、岩木周作の住所氏名を書いて渡した。
「伯母さんのこと、近所の人に開いて分らなかったら、市役所に行って調べてもらえば、分るかも知れませんよ。それから、これは僕の友人で、僕もこれからそこへ行くんですが、市役所とも関係が深いから、何かの場合には便宜が得られるかも知れません。」
それが、つまり、鮭缶に対する俺の礼心だったのだ。俺は少し酔いかけていた。人間は酔ってくると、なんと善良に親切になることぞ。
娘は先に出かけて行った。宿屋の中はもうひっそりして、空家みたいになっている。
俺も、残りの酒を飲み干すと、ちょっと寝ころんで、それから出かけることにした。持ち古したシガレット・パイプと、ヘヤーピン一本とで、すっかり落
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