ヘヤーピン一本
豊島与志雄
−−
【テキスト中に現れる記号について】
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)小説4[#「4」はローマ数字、1−13−24]
−−
一本のヘヤーピン、ではない、ただヘヤーピン一本、そのことだけがすっきりと、俺の心に残ったのは、何故であろうか。そのことだけが純粋で、他はみな猥雑なのであろうか。
パイプが煙脂でつまっていた。廊下に出てみると、女中が通りかかった。それを呼びとめて、パイプを振ってみせた。
「これが、つまっちゃったんだ。なにか、通すものはないかね。針金かなにか、なんでもいいんだが。」
女中はちょっと足をとめたが、パイプの方はろくに見ようともしない。
「針金………そんなもの、ないねえ。」
「針金でなくてもいいんだが……。困ったなあ。」
実は、パイプがつまったといっても、シガレット用のものだから、パイプなしでじかに吸えば宜しく、さして困ったわけでもない。それでも、女中に軽くあしらわれて、俺はちょっとまごついた風だった。
その時、廊下の向う
次へ
全18ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング