お嬢さん、寝坊だね。」
 女中は雨戸を半分ほど開け、俺の布団を片付けて、出て行った。
「お嬢さん」が起き上った。
 俺はその方に、真正面に向くわけにもゆかず、尻を向けるわけにもゆかず、結局横向きに坐って、酒を飲みはじめた。
 娘は洗面所に立ってゆき、戻ってくると、柱鏡を見ながら、髪をなでつけ頬をパフでたたき、布団をたたみ、雨戸をすっかり開き、お辞儀のようなまねをして言った。
「お早うございます。」
「お早う。」と俺もはじめて言葉をかけた。
 娘はどう見てもカツギヤではなかった。背は低く、肥った丸っこい体で、顔も丸く、丸い眼をして、にこりともしないで、俺の方を見てるのだ。俺の方で少し極りわるくなって、照れかくしに言った。
「御飯は出来ないようですが、味噌汁でも吸いませんか。わりにうまいですよ。」
 娘は頷いて、ボストンバッグの中をかきまわし、自分で立っていった。
 やがて、女中が運んできたお盆には、味噌汁の大きな鉢と、たくあんと、小さな缶詰がのっていた。俺の方では、酒をも一本たのんだ。
 娘は俺の方へ、缶詰をそっと差出した。
「これを、お酒の肴にあがって下さい。昨晩のお礼ですから……。」
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