贅沢は言いません。」
俺は玄関にスーツケースを置き、腰もおろした。
暫く間をおいて、女中は言った。
「仕様のない人だ。じゃあ、わたしがもう起きるから、ここに寝なさい。」
女中の寝床に寝かすのかと思うと、そうではなく、押入れの中の布団と取りかえてくれた。
その時、俺のすぐ後からはいって来て、俺たちの問答を聞いていたらしい、モンペ姿の若い女が、低い声で女中に言った。
「わたくしもお願いします。」
「仕様がないねえ。じゃあ、いっしょに寝るか。」
俺といっしょに寝かすのかと思うと、そうではなかった。
「おかみさん、もう起きなさいよ。」
長火鉢の向う側から、小柄な中年の女がむくむくと起き上った。
「さあ、お嬢さんはこっちだ。」
俺は洋服のまま布団にはいった。
いつでもどこででも眠れるのが、俺の特技だ。その上、ほっとした安心感もあった。すぐに眠った。
僅かの間だったようだ。俺たちはさっきの女中に起された。
「さあさあ、旦那さんとお嬢さんは、あっちの室だ。」
両側に室が並んでいる中廊下を通って、奥の方の六畳に、俺たちは案内された。早立ちの客があって、そこが空いたものらしい。布団も
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