い。図々しいにも程がある。呆れた奴だ。」
「どうしたんだい。」と岩木が尋ねた。
 そこで俺は、話し忘れていたこと、あのヤミ宿での一件を、あらまし打ち明けた。
「なあんだ、それだけか。いたずらでもしたんじゃないのかい。」
「なんぼ俺が物好きでもね。ただちょっと、感傷的に同情したものだから、名刺の裏に君の名前を書いて渡した、それがしくじりの元だ。」
 俺は眉をひそめたが、岩木は仔細げに小首を傾げた。
「まあ待て、僕にも関係がある。話を聞いてみようじゃないか。」
 彼は自分で立って行った。そしてあの娘を連れて来た。娘は室の隅っこにぴたりと坐って、慴えたように身を固くしている。
「話は清水君から聞きましたが、伯母さんのこと、どうでした。」
「はい。」
 一言答えたきり、言葉を切った。その顔を見て、俺はちと戸惑いした。あの時、娘は夢でも見てるかのように、ただぼーっとして、殆んど表情がなかった。ところが今、その同じ丸っこい顔に、うち沈んだ影がさし、少し落ち窪んだ眼に、涙さえ浮べてるらしい。
「はい。」と娘はまた言った。「市役所で調べて貰いました。伯母さんは、やっぱり亡くなっておりました。お墓は分り
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