ればすぐに帰って来るだろうことなど、口籠り加減に言う。だが、家にあがれとは言わない。
俺はちょっと困った。
「それでは、そのへんを少し散歩してきますから……。」
辞し去ろうとすると、彼女はあわてて引留め、座敷へ俺を通した。そして引込んだきり、なかなか出て来ない。
鍵の手になってる建物の、あちらの一廓が賑かだ。あとで聞いたことだが、戦災にあった親戚の大人数の一家が住んでいる。こちらの方はひっそりしている。可なり広い庭に、適度な植込みがあり、頬白が茂みの中に動いている。その庭の、縁側伝いの彼方に、セメント造りの大きな池があり、どういう仕掛けか水がちょろちょろ注いでいて、みごとな真鯉がいくつも泳いでいた。
その池のところへ行って、俺は鯉を眺めた。そしてそこで、紅茶をのみ、果物をたべ、新聞をよみ、また鯉を眺めた。午後になってすぐ岩木が帰ってくると、彼といっしょに鯉を三尾ほど捕えて、それを酒の肴に料理した。
岩木は十年前と殆んど変っていなかった。俺の方も変っていないと彼はいう。そして二人で顔見合せて笑い、楽しく語り合った。だがそれらのことは、この物語と関りないから、省略しよう。
俺の
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