ーメーンなものは、人間性の範囲の中央に近いものを指す。横から見る時には、強でも弱でも善でもない中間の無色なものであり、縦から見る時には、高遠でも深刻でもない中間の水準面である。一言にして云えばもっとも凡庸なものである。
 ヒューメーンというわりに響きのいい仮面の下に、毒にも薬にもならないような多くのつまらないものが逃げこんでくる。安価な人情味という奴がその一つである。平面的な人生の姿という奴がその一つである。新聞の三面記事にも等しい人生記録という奴がその一つである。行きあたりばったり盲目的に取って来られた家常茶飯事という奴がその一つである。其他種々。即ちヒューメーンというのは、一の塵捨場である。人間の精神生活には何の役にも立たないがらくたの掃溜である。そしてこの掃溜をそのまま写真に取ったような作品が、往々にしてヒューメーンだと云って賞讃せられる。勿論ヒューメーンには違いない、然しそれは賞讃の理由にはならない。
 掃溜に転ってるがらくたの一つでも、それを真摯な鋭い眼で眺むる時には、其処に、深所から光りがさしてくる、或は高い所から光りがさしてくる。その光りに輝らされる時、がらくたにも大きな
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