多くの主要な事件や人物は草案されていた。クリストフは一八九〇年以来、グラチアは一八九七年より、燃ゆる荊[#「燃ゆる荊」に傍点]のアンナの姿は全部一九〇二年に、オリヴィエとアントアネットは一九〇一年から一九〇二年に、クリストフの死は一九〇三年(曙[#「曙」に傍点]の最初のところが書かれる一か月前)。「今日、一九〇三年三月二十日、いよいよジャン[#「ジャン」に傍点]・クリストフ[#「クリストフ」に傍点]を書き始める、」と私がしるしたときには、私は麦の穂束をこしらえるのに、穂をよりわけ締めつけるだけでよかったのである。
 それゆえ、私が成り行きしだいに無計画にジャン[#「ジャン」に傍点]・クリストフ[#「クリストフ」に傍点]の中にふみこんだと想像する、浅見な批評家の説が、いかに不当なものであるかは明らかであろう。私は早くから、堅固な構成にたいする欲求と愛着とを、フランス流で古典的で師範学校的である教育から得てきたし、血液の中にもそれをもっていた。私はブルゴーニュの建築狂の古い種族なのである。一つの作品に手をつけるときには、土台を固めず主要な線を引かずにはおかないだろう。最初の数語が紙上に投げ
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