りまで私は、ある社会的連係によって、パリーの「広場の市《いち》」につながれていて、そこではクリストフと同様に、ひどく異邦人の感じがした。女が胎児を宿すように私が自分のうちに宿していたジャン[#「ジャン」に傍点]・クリストフ[#「クリストフ」に傍点]は、私にとっては、犯すべからざる避難所であり、「静安の島」であって、荒立った海の中でただ私だけがそこに行けるのだった。私はそこに、将来の戦闘のためにひそかに自分の力を蓄積しておいた。
一九〇〇年後、私はまったく自由な身となり、自分自身と自分の夢想と自分の魂の軍隊とだけを伴《とも》として、荒波の上に決然と突進していった。
最初の呼号は、一九〇一年八月暴風雨のある夜、シュウィツのアルプス山の上から発せられた。そのことを、私は今日までかつて公表しなかった。それでも幾多の未知の読者は、私の作品の囲壁に沿って鳴り渡るその反響に気づいてくれた。人の思想の中のもっとも深奥なものは、高声に表白されてるところのものではけっしてない。ジャン・クリストフの眼つきに接しただけですでに、世界に散在してる未見の友人らは、この作品の源泉たる悲壮な友愛、この勇壮な気力の
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